ガヤー、アムリッツアルでのチケット争奪戦と比べ、あっさりとチケットが取れて拍子抜け。「外国人用」がこれほどまで楽だったとは……。時間が余ってしまった。一度ホテルに戻り、チェックアウトは明日と伝え、このホテルのチェックアウト時間は12時であることを確認する。
残念ながらこのホテルは部屋にwifiが繋がっていなかった。繋がるとフロントはいうが、弱すぎて事実上繋がっていなかった。1階の共有スペースまで行かなければ使えない。外国人街にあるホテルなのに、外国人の宿泊者は見かけず、インド人ばかりのホテルだった。
部屋でだらだらとKindleで本を読んだあと、夕方になってようやく外出。食生活がめちゃくちゃなリズムになっている。旅の終わりと帰国後の生活が気になり始めていたためか、観光はおろかコンノートプレイスさえ行く気力がなかった。
翌朝、ホテルの共有スペースへ行く。一晩考えて帰国を決意した。これ以上続けても、なにもない。コルカタに1泊してバンコクへ飛ぶ。ダッカは次回に持ち越し。これでカイバル峠からコルカタまで、陸路で移動するという目標が達成される。バンコクで荷物を預かってもらった友人と会って、当初の日程通りに帰国する。コルカタからバンコクのチケットをネットで予約。ブータンの航空会社がこの区間を飛んでいるので、それを選ぼうとしたら時間帯が悪すぎて断念。話のネタにしたかったのだが……。友人にもその旨を伝えた。
列車は16時55分発だった。デリー最終日。あてもなくふらふらとメインバザールを歩く。旅の後半は移動しているときが一番楽しかった。なにをしても面白くない、というかする気力が沸いてこない。好奇心の摩耗ってやつか?最近動画撮影に凝っているという友人とメッセージのやり取りをしていた。ふと、駅前のカオス状態を撮影してみようと思い立つ。なんどか挑戦するが、意外と難しい。なかなかこのカオスが伝えきれない。メインバザールでは、大音量でゆっくりと走っているトラックが何台か通って行った。なにかのお祭りらしい。そんな光景を写真や動画を撮影している旅行者に交じって自分もやってみた。
一度ホテルに戻り、チェックアウト。メインのバッグはホテルに預かってもらう。2泊で3000インドルピー(約4800円)、すでに2000インドルピー(約3200円)を払っていた。残り1000ルピー(約1600円)を払おうとすると、それをはるかに超える額を要求してきた。
「なんで?あと1000インドルピー(約1600円)でいいだろ?!」
「タックスだ!」
「お前、チェックインのとき、タックス込みっていっただろうが!」
少しきつい口調でいうと、すぐに引き下がる。25年前はこういうやり取りが普通で、そのたびに時間を費やしていたのだが、すぐに引き下がったのは、インドが変わったのか、私がしたたかになったのか……。初めてのインドを終えインドの話をした今の私くらいの年齢の方に言われた言葉がよみがえってきた。
「何年後かわからないけど、また行ったらきっと違う感想を持つはず。それを楽しみに仕事頑張ってね」
次のインドは25年後?生きてだろうか……。
小雨がぱらついて、歩くのもいやになった。歩いていると急に雨脚が強くなった。慌てて屋根のあるところに行くと、ラッシーの店だった。飲むか?と顔で誘われたが、これからの移動を考えるとここは我慢のしどころ。買うのは控えた。雨脚が弱くなったのを見計らってその場を離れ、wifiがあるレストランに入り、出発時間まで時間を潰す。
ホテルに戻ってバッグを背負いニューデリー駅へ。出発ホームを探すが見つからない。電光掲示板はめまぐるしく出発する列車の案内が変わっているのだが、自分の乗る16時55分発コルカタ行きはどこのホームにも出てこない。ホームを結ぶ橋を4往復ほどしてようやく出発ホームが判明。さすがに汗だくになっていた……。
指定された席を見つけると、すでに先客。グループで来たのだが、席が分かれてしまったので代わってほしいとのこと。進行方向と平行になる席となり、そちらの方がありがたかった。
出発すると、すぐに乗員が「ノンベジか?」と尋ねてきた。この列車は食事が付いていたらしい。調べてみると「Rajdhani Express」という豪華列車だったのだ。運賃に食事代が含まれていたらしい。アムリッツアルからの列車同様、エアコン寝台車は客層がいい。富裕層の乗り物なのかもしれない。旅行者に話しかけることもなく、グループで乗っている人はグループで話をして、ひとりの人はタブレットでなにかを見ている。私もカーテンを閉めて自分の世界に浸る。食事のサービスが来たときだけ話をするといった感じだった。楽で快適だけど、どことなく寂しい。ひとり旅はそろそろ限界かな、と思いはじめた。