Pumpui's Diary

タイに約18年住んだ男のつぶやき

女にはまった工場長

浅岡は日系製造工場で現地採用として働いている50代前半の男性だ。バンコクに本社が、郊外に工場があった。本社には日本から来た社長が常駐しており、工場には日本から来た工場長の古川と浅岡がいた。社長はバンコクにいることが多く、工場のことは古川に任せきりだった。

古川は50代半ば。専門学校を卒業後この会社に入社し、以来現場一筋に生きてきた。この日系メーカーは海外に進出しているものの、古川にとって海外赴任は初めてであった。子供は大きくなっており、妻だけが一緒についてきた。

浅岡は入社してしばらくは、古川の下で管理業務と生産管理全般を行っていた。タイ語はもちろんのこと英語もそれほど話せるわけではない古川は、タイ語の堪能な浅岡に頼りきりだった。年齢も近いこともあり、ふたりの関係は良好だった。

浅岡が入社して1年ほど経つと、生産量がだいぶ増えてきた。古川は浅岡には生産に専念してもらい、管理部門は日本語のできるタイ人に任せることにした。面接を経て、クンという20代後半の女性を採用した。クンは大学で日本語を学び、卒業後は日系企業で社長秘書や通訳、総務部門を経験していた。

クンが入社すると古川は浅岡を遠ざけるようになり、クンとばかり話すようになった。ふたりでこそこそと小声で話しており、浅岡はなにを話しているか全くわからない。しばらくすると、古川は外出の際、クンを連れて行くようになった。取引先との打ち合わせに帯同させているらしい。ふたりがオフィスにいる時間がだんだんと短くなってきた。このころ、浅岡はうるさいやつがいなくなってせいせいしたと思っていた。しかししばらくすると、浅岡のもとにクンに対する苦情がもたらされるようになった。浅岡の配下にあるスタッフやワーカーに対し「そんなんじゃボーナスあげないわよ」とか「なにさぼってるの!ちゃんと仕事しなさい」などと言うようになったらしい。浅岡が古川にその話をしても「まあ、彼女も一生懸命やっているんだから、いいじゃないか」などいって相手にしない。浅岡はスタッフの不満をそらすことに頭を抱えるようになった。

あるとき、古川は日本出張の際、クンを研修と称して一緒に連れて行った。一週間ほど日本で一緒に過ごしていたらしい。スタッフからの突き上げも激しくなり、浅岡はこの会社の雰囲気に嫌気がさしてきた。数か月後、浅岡は転職した。

転職して数か月後のある休日。浅岡は新しい職場の仲間とゴルフを終え、スクムビット日本食レストランで食事をとっていた。会計を済ませて店を出ると、見覚えのある顔が目に入った。古川であった。二十歳にも満たないタイ人女性と手をつないで、この店に入ろうとしていた。浅岡が唖然として見ていると、浅岡に気がついた古川はそそくさと逃げるように去っていった。「なんすか、あの人。変な人ですね、浅岡さんの知り合いですか?」と一緒にいた同僚に尋ねられたが、浅岡は「はぁ……」としか言いようがなかった。

しばらくして、古川に辞令が下った。日本へ帰任せず、インド工場へ転勤となった。妻は帯同しなかった。

(この話は事実をもとに書いていますが、登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません)