Pumpui's Diary

タイに約18年住んだ男のつぶやき

困ったタイ人部下

先日不思議な夢を見て、思い出したあるタイ人部下の話。

なぜかスクムビットを歩いていた私。以前仕事で世話になった会社経営者Hさんが前から歩いてきた。

H「P君、久しぶり。元気そうだね」

P「ええ、おかげさまでなんとかやっています」

H「そうそう、ナタポン(仮名。以下同)さんがP君によろしくって言ってたよ」

Hさんは笑いながらある男の名前を口にした。

ナタポン?もしかしてナタポンって、あの……......。ひとりのタイ人が頭に浮かんだ。

 

私はある大手メーカーの下請けで働いていた。この会社は大手メーカーの工場と周囲にある施設の管理を行っていた。工場はS地区とG地区にあり、私はG地区の担当マネジャー待遇として採用された。G地区は5チームに分かれていた。そのうちの3チームはすでに数年前から業務を行っていた。2チームが新たに立ち上げられ、まずは1チームを担当し、徐々に仕事を覚えて行ってほしいということだった。

この会社の職制は、ワーカー>リーダー>フォアマン>チーフ>アシスタントマネジャー>マネジャーとなっていた。ナタポンはこの新しいチームを担当することで雇われた40代前半、G地区唯一のチーフだった。

入社当初、S地区から立ち上げ要因としてアシスタントマネジャー(30代後半)が来ており、彼と一緒に立ち上げを行ってほしいといわれていた。このチームはチーフ1名、フォアマン、リーダー各2名。日/夜勤の2シフト、ワーカーは1シフト20名前後だった。チーフのナタポンを含め、全員がこの立ち上げのために新たに採用されたものばかりだった。アシスタントマネジャーと一緒に経験の浅いワーカーに指導を行っていたわけだが、ワーカーひとりひとりを指導するわけにもいかず、チーフであるナタポンを通すことが多かった。当初、ナタポンは優秀なチーフだった。指示したことはきちんと行われており、定期的にやってくる日本人幹部の質問にもきちんと答えられ、評価が高かった。だが、しばらくすると化けの皮がはがれてきた。

私は工場にあるオフィスと現場を往復する日が続いた。チーフ以下は呼ばれることがない限り、オフィスに上がってくることはない。アシスタンマネジャー不在のある日、電話でナタポンを呼んだ。フォアマン以上には会社から携帯電話が支給されている。ナタポンは電話に出ない。現場でなにかあったのかと思い、現場へ向かう。ナタポンの姿が見当たらない。

「おい、ナタポンどこにいる?」

ワーカーに尋ねる。

「さあ、どっかで電話でもしているんじゃないですか?」

しばらく現場にいるとナタポンが現れた。

「ああ、Pさん、すいません」

こんなことがなんどか続いた。こっそり現場へ行くと、ナタポンが激しい身振り手振りで電話をしている姿を見ることが増えた。

いったい彼はだれとどんな話をしているのか?アシスタントマネジャーはナタポンと電話で話すことはほとんどないといっていた。

「ナタポンはいったいだれとなにをはなしているんだ?」

親しいワーカーに聞いてみた。

「Pさん、日本人だからわからないと思いますけど、ちょっと気持ち悪いんですよ」

このワーカーによると、なにをいっているのか、よくわからない。方言とかそういうのではなく、電話に向かってひとりごとをいってる。まるでピー(お化け)と話している、そんなふうに見える……。

ある日、ナタポンが大きなミスをした。イージーなミスだったこともあり、少し強い声で彼を叱責した。すると彼は突然

「きさまー日本人だからって偉そうなこと言ってるんじゃねー!口の利き方に気をつけろー!」

と言い返してきた。まさに逆キレである。

ケンカ別れのようになってしばらくすると、電話がかかってきた。タイ人上司に当たる男性からだった。

上「おい、P、ナタポンとなにがあったんだ?!」

P「いやあ、あるミスについて叱責してたら、急にキレたんですよ」

上「ナタポン、アシスタントマネジャーにクレーム入れてきたぞ。あのナタポンが怒るって、Pの言い方が悪かったんじゃないの?」

P「はぁ~以後気を付けます」

まだナタポンの奇行はS地区では知られていなかった。

その後、私は彼を避けるようにした。仕事に関する話は直接フォアマンと話すように心がけてた。そんな日が続いたある日、あるワーカーと話をした。

ワ「Pさん、ナタポンの相手、大変ですねえ」

P「あいつ、以前はああじゃなかったし、仕事もちゃんとやってたよなあ……。もしかしてそれって、やつじゃなく……」

ワ「Pさん、今ごろ気がついたんですか?Pさんが指示したこと、ナタポンはすべてフォアマンに振って、フォアマンがやっていたんですよ。ナタポンはただPさんに報告しているだけ」

P「やっぱりそうだったか……」

ワ「気づくの遅いです(笑)。Pさん、タイの文化知ってるでしょ。ナタポン年上だからみんな遠慮して、なにもいえないんです」

ナタポンは40代前半。ワーカーの大半は20代。アシスタントマネジャーも表向きは上司と部下の関係を維持していたが、ナタポンの悪い点については私に伝えないようにしていた。気が付けなかった私が悪い。

徐々にナタポンの奇行が社内に知られるようになり、プレゼンでも頓珍漢なことを言い出したりすることが続き、彼の性格が知られるようになった。会社幹部はおろか、ワーカーからも信用を失っていった。

その後、組織変更もあり、私とナタポンの関係は終わった。私が退職した直後、彼は会社都合で退職したと、人づてに聞いていた。次の会社で働き始めて数か月が過ぎたころ、ナタポンから電話があった。

ナ「Pさん、ナタポンです。覚えていますか?」

P「ああ」

ナ「もう新しい仕事、見つかっていますか?」

P「ああ、忙しいからまたあとでな」

その夜、親しくしていたスタッフに電話して、ナタポンから電話があったことを伝えた。

「ああ、Pのところにも電話したのか。どうやら仕事見つからないらしく、Pに仕事紹介してもらおうと思って電話したんだと思うよ」

以来、ナタポンから連絡はなかった。

 

P「もしかして、ナタポン、Hさんの会社で働いているのですか?」

H「面接に来たんだよ。履歴書見るとP君が勤めていた会社の名前があったから、P君の名前を出したんだ。上司だって言ってたよ」

P「まさか雇ったんじゃないですよね?」

H「ははは……。P君ならわかるでしょう。雇えないよ、彼は……」

P「でしょう」

H「大変だったね」

P「まったくです(笑)」

Hさんは面接で彼の性格がすぐにわかったようだ。

なぜ今ごろ、ナタポンの名前が夢に出てきたのかわからない。まああまり思い出したくないタイ時代の思い出のひとつだ。